2015年5月26日火曜日

組織人は「新規ビジネス」をどう実現するのか

既存のビジネスモデルやマネジメントモデルが成立した組織の中で、破壊的ノベーションを含んだ新しいビジネスを立ち上げるには、どのようなプロセスと手法を使えば良いのか?そのような問いに、ネイサン・ファー、ジェフリー・ダイアーの『成功するイノベーションはなにが違うのか?』は答えてくれる。



この書籍は、著者自身が述べているように、既存の考え方(デザイン思考やリーンスタートアップ、アジャイル開発など)を、「新しいアイデアをテストし、検証し、市場化する」というビジネス化していく一連のプロセスのどの場面でどのように使えばよいか整理しているだけなので、紹介される手法に目新しさは特に感じない。

しかし、冒頭を繰り返すことになるが、既存のビジネスモデルを有した組織の中で、どのようにイノベーションを起こせば良いのかを、事例を含めて体系立てて説明しているため、組織に身を置く人にとっては理解しやすい書き方をしている。

私も、新ビジネス事業部に身を置く人間として、日々、既存のマネジメントプロセスを新規事業に当てはめることの難しさと、マネジメントプロセスの無力さを痛感しているだけに、同著の提示するプロセスや考え方には、共感と私の至らなさを思い知らされる。

語弊なきように補足しておくが、「既存のマネジメントプロセスを新規事業に当てはめることの難しさと、マネジメントプロセスの無力さを痛感している」というのは、決して、既存のプロセスが問題であるといっているわけでは無い。同著でも再三指摘しているように、フレデリック・テイラーを祖に持つ、現代のマネジメントは、「課題が標準的なもので、相互依存性が把握できている場合には、分析や計画、実行といった技術を完全なものにする助け」となっている。標準化されておらず不確実性の高い分野に対しては、それにあった手法が必要であるという話である。

詳細は同著を読んでいただきたいが、既存ビジネスが存在する組織でのイノベーションという観点から、面白かった点を3つピックアップしておく。

1つ目は課題の着眼点についてである。既存顧客の課題や既存の商材といったリソースは、新ビジネスを始める上、手をつけやすくリスクの低いものである。しかし、イノベーションに投資するという観点から考えれば、「既存顧客の緊急の課題は重要ではないわけではない、としながらも、新規顧客に新規ソリューションを提供する場合に比べると、労力に見合うほどの価値をもたらさない」と指摘している。この理屈の裏付けをデータで示している訳ではないのが残念だが、既存顧客の大多数に影響するような重要な課題を解決したあとは、より少ない顧客の課題の解決に取り組むことになるため、先細りになるという論拠は、シュンペーターの論じたイノベーション理論そのものであり、正しいことである。

2つ目はプロトタイピングのやり方である。プロトタイピングの取り組みに失敗する原因として、「具体的な問いの答えにつながるものでなければならないことを忘れていたり」「何かを作ることは改善することだと感じ、検証に必要なもの以上のプロトタイプを作るための労力を使ってしまうことなどがある」を挙げている。耳が痛い話である。

また、プロトタイプの作成についても、「理論上のプロトタイプ」「バーチャルプロトタイプ」「実用最小限のプロトタイプ」「最小限の素晴らしい製品」の4段階を作ることを勧めている。
「バーチャルプロトタイプ」の事例としてIBMの音声認識ソフトのプロトタイプは、部屋にシーツを吊るして、シーツの反対側に隠れたタイピストが、音声認識ソフトの「ふり」をすることで、顧客が興味を持つかどうかという調査をした話が紹介されていたが、この一事例を聞くだけでも、段階を踏んだプロトタイピングの重要性は理解できる。

私は「選択と集中」の考え方から、課題が抽出できた段階でソリューション作成にリソースを全力投球するために、方法やセグメントを限定すべきだと考えていた。しかし、なるべく多くの分野のインサイトを抽出し、極力簡素なプロトタイプから段階を経て、生き残ったアイディアを採用するという同著の方法は、不確実性の強い分野において、選択と集中よりも正しい戦略であると言える。

3つ目は路線変更の考え方である。一つのアイディアが失敗したと判断したときに、アイディアの全てを放棄するのではなく、一側面を変更すべきだという。また、失敗を判断するタイミングは平均2-4ヶ月実行して上手くいかなければ、アイディアの一部を変更すべきだという。

組織に身を置くと、失敗を認めることに対して非常にセンシティブになるが、著者は、不確実性を予見することは不可能であり、投資した時間のほとんどが無駄になることを「覚悟しろ」と言っている。

なかなか、現場レベルでイノベーションを含んだ発想を展開することは難しいと思うが、同著ではミクロな視点から、事例を持ってイノベーションの起こし方を紹介してくれているので、組織に身を置く「失敗する覚悟のある人」は読んで損にならない一冊だと言える。

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新村和樹

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